大判例

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福岡高等裁判所 平成11年(行コ)6号 判決

控訴人

株式会社A

(旧商号・有限会社A)

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

山本洋一郎

被控訴人

別府税務署長 佐藤喜代明

右指定代理人

西郷雅彦

金子健太郎

田川博

秋岡隆敏

中島一人

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が控訴人に対し、平成六年六月二七日付けでした控訴人の平成二年一一月一日から平成三年一〇月三一日までの課税期間についての消費税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

三  控訴費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三頁一〇行目及び同四頁二行目から三行目の各「対価」の次にいずれも「の額」を加える。

二  原判決六頁三行目「乙」の次に「(原審及び当審)」を、同「原告代表者」の次に「(原審)、調査嘱託の結果(当審)」をそれぞれ加える。

三  原判決一〇頁五行目「乙」の次に「(原審及び当審)」を、同「原告代表者」の次に「(原審)」をそれぞれ加える。

四  控訴人の当審において補充した主張

1  原材料支給型の加工等外注取引に関して、製造販売契約の方式により外注先業者が発注元業者から原材料等の有償支給を受けている場合には、国税庁長官の新通達五―二―一六によれば、原則として加工後製品の販売代金額全額が消費税法二八条一項所定の「資産の譲渡等の対価の額」になるが、その場合でも、「発注元業者がその支給に係る原材料等を自己の資産として管理しているとき」には、外注先業者にとって、収用すべき代金額から原材料等の有償支給に係る金額を控除した金額が右「資産の譲渡等の対価の額」に該当するとの例外を許容する解釈を示している。

しかし、右新通達が例外を許容する場合の基準は、支給した原材料等について、これを「発注元業者が自己の資産として管理しているとき」という極めて曖昧なものであり、客観性を欠き、租税法律主義の原則に反するものであり、また、主語が発注元業者に限られているため、発注元業者の経理処理を主たる基準とするかの如き誤解を与えてしまい、外注元業者は自己の知りえない発注元業者の内部の経理処理如何によって課税が左右される結果となり、更に発注元業者の主観的意図や目的によって客観的な取引の実態に基づかない課税を強いられることにもなる。よって、右新通達の示す例外基準は妥当なものとはいえない。

消費税法が課税標準を「対価を得て行われる資産の譲渡等の対価の額」に限定しており、同法二八条一項、二条一項八号の各括弧書、三八条一項の各規定が経済的・実質的な観点から「資産の譲渡等の対価の額」について規定していることに照らすと、例外を許容する場合の基準は、契約方式が原材料等の有償支給による加工後製品の製造販売契約となっていても、「その客観的な取引内容が『加工後製品の販売』の経済的・実質的な実態を有していないとき」と解釈すべきである。

具体的には、〈1〉加工後製品の販売価格が加工賃単価と原材料単価とに区分されているか、〈2〉原材料単価が発注元業者から受給した際の単価と同一であるか、〈3〉販売価格中の原材料単価及び発注元業者からの受給原材料単価の設定が合意に基づくものか、〈4〉外注先業者が原材料の使用・収益・処分の権限を有しているか、またその権限を現実に行使することが可能か、〈5〉原材料の形状、材質等に加工等の前後を通して著しい変化が生じているか、〈6〉原材料につき、出荷の対象となった品番・数量、加工等の対象となった品番・数量、未使用在庫の理論上及び実際上の各品番・数量を総合的に把握管理しているのはどちらか、〈7〉取引の打切りに際し、未使用分の原材料は発注元業者に返品されることになっているか、〈8〉これら事情につき、各当事者の認識は一致しているか、〈9〉各当事者の経理処理の内容が相手方にとって認識可能なものであるか、等を総合して判断すべきである。

そして、本件取引は、加工後製品の販売として経済的・実質的な実態を有していないので、控訴人がBから加工後商品の納品に際して収受すべき金銭のうち、原材料の有償支給に係る金額を除いた金額(加工賃の額)が「資産の譲渡等の対価の額」に該当する。

2  仮に「資産の譲渡等の対価の額」の解釈について、右新通達が例外を許容する場合の基準によるとしても、以下の理由により、本件取引は形式的には有償支給の形態をとっているが、原価による支給であり、外注先業者が当該支給材の受払い、数量管理等を行っている場合に該当し、また経済的実態が原材料等の譲渡を伴っていない場合でもあるから、「発注元業者がその支給に係る原材料等を自己の資産として管理しているとき」に該当する。

第一に、電子部品の売買代金額は、支給材の仕入原価そのものに加工賃のみを加算した額と定められていたため、控訴人は支給材に限ると利益幅が零のまま発注元業者のBに戻していたのであるから、実質的には支給材につき売買があったとはいえず、無償貸与と同様である。

第二に、支給材の売買については、その代金額を売主であるBが買主である控訴人との間で協議すらせずに決定していたのであるから、有償契約の基本である代金額の合意を欠いており、また両者とも本件取引の中で支給材の代金額に無関心であったことなどから経済的実態からみても支給材の売買があったとはいえず、無償貸与と同様である。

第三に、控訴人は、受給した支給材について所有者として使用・収益・処分の機能を奪われており、代金を支払って所有権を獲得する機会も奪われていたのであるから、無償貸与と同様である。

第四に、Bは、支給明細表、仕入明細表を自ら作成し、実際在庫高記入表を控訴人に作成させ、これをもとに材料受払総括表を自ら作成してコンピューター管理を行っていたのであり、しかも控訴人作成の実際在庫高記入表を鵜呑みにしていたのでもないから、Bこそが支給材の受払い、数量管理等を行っていたといえる。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の請求は棄却すべきであると判断するが、その理由は次のとおり補正するほか、原判決中の「第三 争点に対する判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三八頁四行目「乙」の次に「(原審及び当審)」を、同「原告代表者」の次に「(原審)、調査嘱託の結果(当審)」をそれぞれ加え、同一〇行目「作業過程は、」を「控訴人とBとの間の本件取引における作業手順、支給材の出荷、消費及び在庫状況の把握、代金額の決定及び決済方法、経理処理等は以下のとおりであった。」と改め、同行の「まず、」の前に「(1)」を加えた上、(1)以下の部分を改行する。

2  原判決四一頁二行目「(三)」を「(2)」と、同四行目「(四)」を「(3)」と、同八行目「せずに決定する。」を「することなく金額を設定し、控訴人がそのままそれを承諾する形で決定されるが、これに対し、」とそれぞれ改める。

3  原判決四二頁七行目「(五)」を「(4)」と、同一二行目「(六)」を「(5)」と、同四三頁二行目「(七)」を「(6)」とそれぞれ改める。

4  原判決四五頁二行目「のであり、」を「のであって、税務上はもとより会計処理上もこれによって実務が運用されており、かつ」と改める。

5  原判決四六頁九行目「該当し、」の次に「これらの場合、」を加え、同一二行目の次に改行して次のとおり加える。

「右の点について、控訴人は、右新通達の「発注元業者が原材料等を自己の資産として管理しているとき」という例外を許容する場合の基準は曖昧であり、またこの基準により外注先業者は発注先業者の経理処理や主観的意図などによって取引の実態に基づかない課税を強いられることになり、妥当な基準とはいえないなどと主張する。

しかし、右新通達は、その注書きをも併せてみると、製造販売契約の方式による取引において、発注元業者から外注先業者に対し原材料等の有償支給がなされている場合でも、発注元業者が右原材料等を自己の資産として管理しているときには、発注元業者及び外注先業者のいずれにとっても原材料等の有償支給は資産の譲渡に該当しないとの解釈基準を示したものであって、これは消費税法二八条一項所定の「資産の譲渡等の対価の額」の意味を実質的に捉えた解釈であり、売買という形式にとらわれずに取引の実態という実質的な観点から右条項に該当しない例外の場合を例示したものであって、その解釈基準は趣旨が明確であり、合理的かつ妥当なものというべきである。

よって、控訴人の主張は採用できない。」

6  原判決四八頁五行目「である」を「であると」と改め、同七行目「該当する。」の次に改行して「なお、平成一〇年一二月をもって控訴人とBとの本件契約は終了し、これに伴い同月末日現在で控訴人の許に残った支給材につきBはこれを返品として引き取っているが、これは一旦売却した支給材を合意解除したことによって返還を受けたものと認められ(甲二六ないし二八の各2、控訴人代表者、証人乙(いずれも当審))、これをもってBが実質上無償支給した未使用支給材につき控訴人から返還を受けたものということはできない。」を加える。

7  原判決五〇頁三行目「乙」の次に「(原審及び当審)」を、同一〇行目「異なる。」の次に「以上によれば、本件取引において、Bが支給材を「自己の財産として管理」しているとはいえない。」を、同一一行目「形式」の次に「やその主観的意図、目的」を、同一二行目「形式」の次に「など」加える。

8  原判決五一頁一行目「法的安定性を害する旨主張するが、」から同一一行目「解されない。」までを次のとおり改める。

「控訴人に対し客観的な本件取引の実態に基づかない課税を強いることになるので妥当とはいえず、それは本件取引に関する諸事情を総合して判断すべきである。そして、本件取引は、加工後製品の販売として経済的・実質的な実態を有していないので、支給材の有償支給に係る金額を除いた金額(加工賃の額)が「資産の譲渡等の対価の額」になると主張する。

確かにBの経理処置の形式やその主観的意図などだけから「資産の譲渡等」に該当するか否か、及びBが控訴人へ支給した原材料等を「自己の資産として管理」しているか否かを判断するのは相当とはいえない。

しかし、前記第二の一の4の事実や前記1に認定した事実から窺うことができる控訴人とBとの間の本件取引の実態は、Bが控訴人に対し支給材を支給し、控訴人がこれを用いて電子部品を組立加工してBに納品し、支給材代金債権と電子部品代金債権とを当月末日締めで翌月一五日に対当額で相殺し、差額分をBが控訴人に支払って清算するという方法がとられている製造販売契約であり、支給材が有償支給であることを前提とした支払方法等に関する取り決めがなされ、実際上も右決済にあたり、Bは支給材の売掛代金額に消費税額を加算した額を控訴人に請求し、控訴人の方も仕入れた支給材の代金額に加工賃を上乗せした額を電子部品の代金額とし、これに消費税を加算した額をBに請求し、同時にBは控訴人に毎月末の支給材の在庫に見合う在庫補償もしており、加工不良額や理論在庫額と実際在庫額を比較して不足が生じたときは控訴人の負担となるが、剰余が生じたときは控訴人の利益となるように処理し、毎月の支給材の未使用部分について返還処理をせず、Bの経理上も原材料等の支給について仮払金処理をせずに右のような実際の決済に符合する売掛金として処理し棚卸資産も減少させていたものである。また、Bは常時控訴人の元にある支給材の実際在庫高を把握しておらず、支給材について受払いや数量管理もしていなかった。したがって、控訴人の電子部品の製造作業がビス締め作業、カシメ作業などに留まり、支給材の形態に著しい変化を生じさるものではなかったこと、また控訴人の製造した電子部品の販売価格に占める原材料単価が支給材単価と同一であり、それがBの意向どおりに決まっていたこと、更に支給材について、Bに所有権留保されており、控訴人がそれによって利益を上げたり自由に処分することもできないなどの制約があったこと、また支給材の引渡し数量について、Bが控訴人の作成した実際棚卸記入表に基づき材料受払総括表を作成し、これに基づき支給材の出荷数、消費数、控訴人の工場内の在庫数などをコンピューターに入力して把握していたことなど前記認定事実から窺える諸事情を考慮したとしても、それらは、控訴人とBとの本件取引が賃加工契約に近い内容のものであることを窺わせるものではあるが、製造販売契約であることを否定するまでの事情とはいえず、またBの控訴人への支給材の有償支給が「資産の譲渡等」に該当しない例外の場合であることまで認めうる事情ともいえない。

よって、控訴人の主張は採用できない。」

二  結論

以上の次第で、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 山田和則 裁判官兒嶋雅昭は、退官につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 將積良子)

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